研究内容
蛋白質のフォールディング・アミロイド形成・複合体形成という、三種類の自己組織化現象のメカニズムについて,
研究しています。
アミノ酸の直鎖状高分子である蛋白質は、
① 機能的な天然構造を形成する『フォールディング能』
② 他分子と特異的に結合する『複合体形成能』
③ 繊維凝集体を形成する『アミロイド線維形成能』
という、三種類の自己組織化能を有します。『フォールディング能』と『複合体形成能』は、正常な生命活動にとって重要ですが、『アミロイド線維形成能』は、アルツハイマー病などの疾患と関連する現象です。 これらの自己組織化を司る物理学的法則を解明することは、生命科学・医学にとって、重要な課題の一つです。
[主な研究成果]
- SBDの残余構造: Ota et al. 2016
- 抗体軽鎖可変ドメインのアミロイド線維形成
Kobayashi et al. 2014 - 腸管出血性大腸菌の天然変性型病原因子 - EspB - の構造・機能解析 Hamguchi et al. 2013, Hamada et al. 2010, Hamaguchi et al. 2008, Hamada et al. 2005
蛋白質は、変性状態との自由エネルギー差を用いて、天然状態を形成しています。天然構造の詳細は、X-線結晶構造解析やNMRを用いて明らかにすることができますが、変性状態の詳細な構造は、わかっていません。我々は、円偏向二色性スペクトル、蛍光などの様々な分光法とSimilarity Parameterという、新しい解析法を使って、GlucoamylaseのStarch Binding Domainの変性状態中に、天然構造様、非天然型の残余構造が存在することを示しました。同時に、構造転移とは直接関連しない、トリプトファンの蛍光変化が6M 以上の塩酸グアニジン存在下で起きることも、新たに発見しました。この現象は、驚くべきことに、これまで、誰も観測したことのない、溶液化学的に、非常に興味深いデータであり、塩酸グアニジン溶液が常に均一な状態でないことを示唆しています。
抗体軽鎖のアミロイド線維形成はALアミロイドーシスという全身性臓器不全の原因になると考えられています。これまでの研究から、抗体軽鎖可変ドメイン(VL)の天然構造の不安定化によるう変性現象が、アミロイド線維形成の引き金になると考えられていました。VLには、通常、様々な外来因子を認識するために、アミノ酸配列のバリエーションがありますが、このバリエーションのいくつかが、特に天然構造の不安定化の原因になると考えられますが、どのような変異が、実際に自然界においてそのような原因になるのかは、わかっていませんでした。我々は、アミロイド線維形成能の高いVLと低いVLのキメラ蛋白質、部位特異的変異体を用いた一連の熱力学的な解析から、天然構造で分子表面に存在するわずか二残基のアミノ酸の違いが、構造不安定化の原因となることを示しました。一方、この研究から、抗体医薬品の開発の際に、構造不安定化が、原因で生産が困難である抗体の改変に対しても、資する成果です。
腸管出血性大腸菌O157 (以下、O157) は、複数の病原蛋白質を用いて、ヒトの腸管上皮細胞に強固に定着し、ベロ毒素を産出することにより、時には死を招くほどの重篤な症状を招きます。O157が生産するEspBは、ヒトなどの宿主細胞の持つ、αカテニンという蛋白質に結合することで、この「強固な定着」が起きる際に、生ずるアクチン線維のバンドリングを促す蛋白質です。先行研究により、この蛋白質の一部が、緩く巻きあがったαへリックス構造を形成していることが既に明らかにされていますが、他の大部分が、フラフラとした立体構造を形成している「天然変性蛋白質」であるため、X線結晶構造解析や核磁気共鳴といった高分解能技術による詳細な立体構造解析が困難でした。そこで、我々は、EspBを分断した断片を複数調製し、様々な分光学的・熱力学的研究手法を用いて、その立体構造を解析し、これらの断片的な情報をジグソーパズルのピースとし、 フラフラとしたEspB全長の低分解能構造を、明らかにしました。その結果、EspBの30番目~70番目のアミノ酸領域が、比較的安定で且つ伸びた状態のαへリックス構造をとり、それ以外の領域は、一時的に、αへリックス構造を形成するものの、比較的ランダムな紐状構造を形成していることが、示唆されました。さらに、30番目~70番目のαへリックス領域は、全長蛋白質質と同程度の強さで、EspBの結合相手である宿主細胞由来のαカテニンと結合することでアクチン線維のバンドリングが促進されることが、分かりました。
[以前の研究]
- 単一アミロイド線維の観察技術の開発 Ban et al. 2003, 2004
- TFE中のフォールディング Chiti et al. 1999, Hamada et al. 2000, Pertinhez et al. 2000
- 非階層的フォールディング機構Hamada and Goto 1997, Hamada et al. 1996, Kuroda et al. 1996, Hamada et al. 1995
全反射蛍光顕微鏡を使った単一アミロイド線維観察技術開発しました。これにより、個々のアミロイド線維の伸長速度などを解析することができるようになりました。阪大蛋白研・後藤研にいたころの成果です。
世界初、medinペプチドのアミロイド線維伸長観察(x60速)イメージインテンシファイアーとSITカメラを使った白黒ビデオ画像です。
トリフルオロエタノール(TFE)/水溶媒中で、フォールディング速度が加速される現象のメカニズムを解明したほか、その加速現象の程度から、フォールディングパターンの分類ができることを示しました。Oxford 大学にいたころの仕事です。
βラクトグロブリンのフォールディング中間体が、天然構造に存在しないαへリックス構造を有することを示した仕事です。阪大理学研究科の大学院生のころの仕事です。詳しくは、阪大蛋白研後藤研でご覧ください。